幸せな6月最後の日:巡業東コース
6月30日 松竹大歌舞伎東コース初日昼の部(江戸川総合文化センター)
「操り三番叟」
亀・亀コンビの「操り三番叟」が見られるなんて、もう早くから楽しみでした。
緞帳が上がり、下手の揚幕から後見役の亀鶴さんが登場。扇を前に置いて挨拶し、結界を張る。そして三番叟の箱を開けると、中からぺったりとうつ伏せになったお人形が現れる。客席がどよめいて、すでにここから楽しげな雰囲気に包まれる。亀鶴さんの糸によって動きを与えられた亀ちゃん三番叟は軽快に踊りだす。
三番叟はまばたきをしない、重心を上のほうに置いて踊る(したがって足に力を入れない)のだそうだ。そう言われて見れば、たしかにそうで、飛んだり跳ねたりがただのジャンプではないのはそういうわけか、と今更ながら納得。澤瀉屋の三番叟は、イギリス人ダーク(だと思う、自信ない)が紹介したマリオネットを猿翁が取り入れたスタイルで、振りが華やかなのだそうだ。膝とび、くるくる連続回転、高いジャンプ、次々繰り出される見事な技に、客席は拍手の連続。糸がからまったところでは、後見の慌てぶり、人形のからかうような動きにあちこちから笑いが聞こえる。私も嬉しくって、見ている間じゅうニコニコしていたような気がする。
亀鶴さんと亀ちゃんは仲良しだということだが、さすがにぴったりの呼吸で、操る側と操られる側の見えない糸による動きがよく合っている。足踏み(人形は足踏みの音を出さない、後見が出す)は亀鶴さんの視線がしっかり亀ちゃんを捉えて、強弱もリズムも亀ちゃんの動きに合わせてトントン、ドンドンと踏み鳴らす。
20分がアッという間に過ぎてしまった。
「口上」
口開きは亀ちゃん。この巡業は総勢44人という構成だそうで、時期が時期だけに、巡業は暑さとの闘い、体力的に苦しいものがあるが一生懸命つとめると決意を述べると、客席から「ガンバって~」という掛け声。亀ちゃん、うれしそうにお礼を言ってました(疲れはお客の反応次第で吹き飛ぶようですよ)。6月は舞台を休んで「七瀬ふたたび」のロケがあったが、そのロケでよく訪れたのが新小岩だそうだ。そこからの巡業スタートというのもちょっと面白い。亀鶴さんと竹三郎さん(浜松屋幸兵衛)はほとんどご自分の役名紹介のみ、竹三郎さんはご当地初お目見えだそうだ。桂三さんは最長老の竹三郎さん、そして段四郎さんというメンバーの中で自分はまだまだ若いと。巳之助クンは初巡業に対する意気込みと緊張が感じられた。段四郎さんも当地初お目見えだそうで、70歳!の竹三郎さん、18歳の巳之助クンの参加が嬉しい、未来の歌舞伎を背負って立つ大事な人材である若者をご贔屓に、と。口上はこれからあちこちの地方ごとのご当地ネタが含まれることでしょう。それも巡業の口上の楽しみですね。
「弁天娘女男白浪」
先月團菊祭で感動した弁天小僧、それを亀ちゃんがどう演じるのか期待が高まる。亀ちゃんは浅草、三越劇場、そしてこの巡業で3回目の弁天なのだそうだ。澤瀉屋の解釈では、弁天と南郷に同性愛的関係があるということで、それに準じて演じるとイヤホンガイドのトークで言っていた。亀ちゃんの弁天には両性具有性がかなり明確に感じられたし、たしかに、男とバレてからも南郷にすっと寄り添ったり、べらんめえ口調ながらどこかにやわらかさというかしっとりさというか、南郷への甘えみたいなものが現れていたように思う(菊五郎さんや菊之助さんとは違った味わいがある。面白いものだ)。南郷はこれまでも弁天をやさしく見守っているようなところが感じられたが、亀鶴さんの南郷(イナセでかっこいいのよ)にはそれを超える感情が見えた、というのは先入観によるものだろうか…。
稲瀬川勢揃いの場は、舞台が狭いためにちょっと苦しく、ちょっと小粒感ありかなあ。花道での渡りセリフは、忠信、赤星、南郷は袖、弁天と日本駄右衛門が舞台にはみ出すという並びになった。また土手下でのそれぞれの名乗りもあまり動きが大きく取れない。その中で、亀ちゃんの名乗りは気合たっぷり、拍手喝采。私、猿之助さんの舞台って全然知らないに等しいんだけど、それでも亀ちゃんの弁天はとく声が猿之助さんに似ているんじゃないか、って思った(全然違っていたらごめんなさい)。また、さ行の発音が段四郎さんに似ている。ただ、私自身の耳のせいか、亀ちゃんの声が時々こもってしまい、ちゃんと聞き取れないことがあって残念。5人の中で一番個性を出しづらくて難しいんじゃないかしらと思う忠信の桂三さんはベテランらしく落ち着いた口調で、一番若い巳之助クンの赤星は初々しく立ち姿がとてもきれい。亀鶴さんの名乗りはキレがあって惚れ惚れ。
段四郎さんが6月歌舞伎に続いて、ここでも安定していてとってもいい。日本駄右衛門には温かみがあり、大勢の部下に慕われる人物であることがよくわかる。
舞台が狭いから派手な立ち回りは一切なく、5人それぞれの両側に捕手が立ちふさがり、という程度で終わった。
「操り三番叟」にしても弁天にしても、大変わかりやすく、かつ何度見ても楽しい演目で、巡業にはぴったりだと思う。
怒涛の6月の最後を飾る東コース巡業初日(東コースといいながら、なぜか丸亀がある)、幸せな2時間半でした。
<上演時間>「操り三番叟」20分、幕間20分、「口上」10分、幕間20分、「弁天娘女男白浪」75分
おまけ1:本日初披露となる「第六回亀治郎の会」のチラシをいただいてきました。暗い砂浜で目を瞑っている俊寛、都を思っているのか。見開きの表紙を開けば、中は艶やかな白拍子花子の絵姿。今年は大劇場とはいえ、たった2回公演だからチケットきびしいだろうな。チラシは亀治郎さんのHPでも見られます。
おまけ2:開演前、ロビーで守田菜生さんの姿を見かけたと思ったら、後方の席に三津五郎さんが。父娘並んで巳之助クンの応援というところでしょうか。
会場の江戸川総合文化センターは、そこだけ異空間のような深い緑の先にありました。
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