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2008年3月23日 (日)

一度は泊まってみたい「プリズンホテル」

321日 「プリズンホテル」(三越劇場1530分の部)

浅田次郎にはまるきっかけとなったのが「プリズンホテル」4部作である。泣いて笑って、とても電車の中で読めるものではない。だから私にしては珍しく自宅で夢中で読んだ。その作品が芝居になるというのだから、張り切って取ったチケットは2列目といういい席が当たった。
それが実際はなんと、2列目が1番前になっていて嬉しいような照れくさいような(最前列で役者さんと対峙するのって、何となく気恥ずかしい)。それに、三越劇場は狭いから、正直なところ、もう少し後ろでもよかったかな、なんて本当に私って我儘で贅沢。
プリズンホテルというのは、奥湯元にあるその筋の方が経営するその筋専門のホテル(本当は「あじさいホテル」という歴とした名前がある)なんだけど、どういうわけか、ワケありの一般の人たちが泊まりにくる。そして何ともはちゃめちゃな従業員たちの心のこもったもてなしを受け、癒されて帰っていく。
今日到着した客は、任侠小説の売れっ子作家木戸孝之介(野沢聡)と秘書・清子(渡辺志保)、そして救急病院の看護師・阿部マリア(根本りつ子)。美人女将・チエ子(多岐川裕美)、番頭・黒田(真夏竜)をはじめとするコワモテの従業員、フィリピン人の仲居たちが3人を迎える。チエ子は本当は孝之介の母親で、事情があって9歳の孝之介を夫のもとに置いたまま家を出てしまっていた。ホテルのオーナーでありかつ孝之介の伯父である仲蔵親分(草薙良一)が孝之介を呼び、28年ぶりに母子を対面させようというのだった。ところが孝之介はどうしようもないジコチュー人間。母親恋しさ、恨めしさのあまり、精神は9歳の子供のまま成長が止まってしまっていた。子供を捨てた形になったチエ子はチエ子で1日たりと息子を忘れたことがない、常に罪の意識に苛まれている。その2人の再会は…。そして、そこへ孝之介の継母・富江(山口果林)までやってきて…。
場面はホテルの1階ロビーだけ。そこで過去が語られ、今のすべての出来事が起こる。登場するのは善意の人たちばかり。孝之介も我儘放題暴れまくりだけれど、愛する人たちへの愛情表現がちょっとねじれているだけ。そういう善意の人たちの優しさが少しずつズレて複雑に絡まりあい、でも最後にはすべてが解ける。けっこうベタなんだけど、これが案外泣けるのである。
チエ子を演じる多岐川裕美は首のあたりに年齢を感じるものの、顔が小さく、ほっそりとして、とても綺麗。私は彼女の声が割と好きで、舞台で生で聞くと心地よい声だなあと、より強く思った。結果として子供を捨てなければならなかった母親の苦悩にも感じ入った。
山口果林には驚いた。じみ~なくたびれたおばさん役が見事にはまっていたから(役作りがうまい)。このおばさんにも男からラブレターをもらった時があったのだ。おばさんは、それを生涯の宝物にしている。その男とは、女房に逃げられた後の孝之介の父親だ。おばさんが語るその幸せにじ~んときた。そして今、孝之介が自分を育ててくれたこの、もう1人の母に乱暴な言葉を浴びせながらも実は愛情を寄せていることがわかり、ああこのおばさん、どんなにか嬉しいだろうと思ったら、又泣けた。
孝之介の野沢聡は初めて見た。なかなかいい男系かな。体も顔も大きく、多岐川裕美が半分くらいに見えてしまう。そのどうしようもない大きな駄々っ子が最後にとうとうチエ子に「おかあさん」と呼びかけ、照れくささを隠すように身を翻してホテルを出て行ったときには、チエ子と一緒に私も嬉し泣きした。この野沢聡、芝居が終わってから知って思わず「え~~っ」と叫んでしまったのは、なんと、あの野沢那智の息子さんだったのだ。ナチ・チャココンビのパック・イン・ミュージック抜きに私の受験時代は語れない(トシがわかるぅ。ま、今さらいいか)。その後も私は声優としての野沢那智にけっこう入れ込んでいた。ナッチャン、一体いつ結婚したんだろ? それにしてもナッチャンは細身でやや小柄だったと思うから、こんなガタイのいい息子がいるとは思いもしなかった。そうと知っていたら、舞台を見る目がまた違っていたかな。
1部はどうしても人物や事情の説明になるから多少くどい感じがしたが、それは私が原作をすでに読んでいて知っていたせいだろう。それを差し引いても、チエ子と孝之介の心情を強調するあまりに、同じようなセリフが繰り返されたような気がして、ちょっと引いてしまったところもあったけれど、全体に脚本は複雑な人間関係をよく整理して、わかりやすかった。第1部を45分と短くしたのは正解だったと思う。
また、原作で何組も登場するホテルの泊り客(孝之介関係は別として)を阿部マリアと、終末医療に携わる医師・平岡(嶋本秀朗)に絞ったのもよかった。この2人は片方が瀕死の病人・けが人を救う立場ならば、もう片方は手の施しようのない患者を安楽死させたために刑務所入りかもしれないという立場にある。しかもこの2人は相思相愛の仲である。平岡のプロポーズを2度も断ったマリアの潔さがちょっとかっこいい。
演技の上手な役者さんが揃っていたから、安心して見ることが出来たし、ベタに泣けたんだと思う。一度は泊まってみたい「あじさいホテル」である。
ま、そんなわけで、この後、夜のとば口の日本橋に佇んだというわけであります。
<上演時間>第145分、休憩25分、第280

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コメント

「プリズンホテル」は、申し訳ないことに未読なんですが、

>あの野沢那智の息子さんだったのだ
このフレーズに思わず「えぇ~!!」と反応してしまいました。あわてて日程を確かめてみましたら、今日までなんですね。残念。

ナチ・チャコのパック・イン・ミュージックは全然知らないと言いたいところですが(笑)当時はアメリカのTVドラマ&外国映画劇場全盛期。わたしも声優としての野沢那智さんの大ファンでしたので知らないワケはなく よく聞いていました。野沢聡さんのお声はお父様似でしたか?

投稿: kirigirisu | 2008年3月23日 (日) 16時20分

今晩は。私は野沢聡さんの舞台は「エリザベート」と「パウロ」を観ました。(寿ひずるさん出演なので…。)すごく背が高いので、「エリザ」の群衆のなかにいてもわかります。今年の「エリザベート」にも出るのかな?

投稿: とこ | 2008年3月23日 (日) 22時00分

kirigirisu様
ごめんなさい。感想をアップするのが遅くなってしまって。元々公演日数も1週間程度で、その後半に見に行ったものですから、アップの日が千穐楽になってしまいました。
野沢那智さんの大ファンがいらして嬉しいです。私は当時、とくにイリヤ・クリヤキンのデビッド・マッカラム+その声のナッチャンにほとんど恋していました
ところで、kirigirisuさんは「アッポ・しましま・グー」はご存知ですか?
聡さんの声は、お父様を意識していなかったので似ていたかと言われるとよくわからないのですが、そんなには似ていなかったように思います。と言って全然違う声でもなく(中途半端でごめんなさい)…。でも、よく透るとてもいいお声でしたよ。

投稿: SwingingFujisan | 2008年3月23日 (日) 22時35分

とこ様
聡さんは「エリザベート」がミュージカルのデビューで、「パウロ」では大変高い評価を得られたそうですね。全然知りませんでした。とこさんはその両方ともご覧になっているんですね。私もこれからは、聡さんの舞台もちょっと見てみようかな、なんて思っています(また、スケジュールとがきびしくなる)。ちょっと気になる俳優さんリストに入ってしまったから…。
聡さん、本当に体が大きいですよね。「プリズンホテル」では、その体の大きさが精神的に幼いという孝之介の人間像にぴったり合っていました。

投稿: SwingingFujisan | 2008年3月23日 (日) 22時42分

野沢聡さんの存在を教えていただけただけでもラッキーです(^^) これから、ちょこちょことチェックしてみます。ってこれ以上あまり手を広げたくはないのですが、でも一度くらいは舞台を見てみたいですね。

デビッド・マッカラムの日本での人気は野沢那智さんの声のおかげと言っても良いくらいですよね。って、ナポレオンソロ知っているなんてあんまり大きな声では言いたくはないのですが(笑)

「アッポ・しましま・グー」は、残念ながら知りませんでした。子供の頃は、姉とTVを見ることが多かったので姉の趣味でチャンネルが決められていることが多かったような気がします。

投稿: kirigirisu | 2008年3月24日 (月) 01時03分

kirigirisu様
野沢聡さんはきっと知る人ぞ知る、だったんですね。私もこのたび初めて知って、やはりもう1回は何か見てみたくなりました。
イリヤの声はナッチャンにぴったりでしたよね。おっしゃるとおり、デビッド・マッカラムの日本での人気はあの声のおかげだったと思います。「アッポ・しましま・グー」はよくは覚えていないのですが、ナッチャンが時々素顔を見せていたように記憶しています。
ナポレオン・ソロ、また見たいわ~

投稿: SwingingFujisan | 2008年3月24日 (月) 01時13分

前のコメントに書き忘れましたが、野沢聡さんはブログを書いてます。公演やお稽古の様子、写真も張ってあります。

投稿: とこ | 2008年3月24日 (月) 20時01分

とこ様
情報、ありがとうございます。早速アクセスしてみました。
なんだか、可愛らしいですね

投稿: SwingingFujisan | 2008年3月24日 (月) 21時58分

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