チャーリーはチャーリーだ
11月29日 「アルジャーノンに花束を」(本多劇場14時の部)
かの有名な下北沢本多劇場という所へ初めて足を運んだ。客席数400足らずというから小劇場には違いないのだけれど、もっと小ぢんまりした劇場を想像していた。ちょっと紀伊国屋サザンシアターに似てるかな。
さて、アルジャーノンだが、昨年2月に浦井健治主演のミュージカルで見て、浦井クンのあまりのピュアさに、ファンクラブに入会しかけた。ミュージカル好きの友人はすぐファンクラブに入ってしまったが、多分他の作品は見ないだろうなと自分を分析した私は何とか、CDの予約だけに思いとどまった。
その時以来、私の中で原作のチャールズ・ゴードンと浦井クンのチャールズ・ゴードンがあまりにも鮮烈に結びついてしまったため、今回の劇団昴のチャールズ(平田広明)は、初め、どうしても受け入れることができなかった。浦井クンのチャーリーはとにかくピュアで、透明感さえ漂う。一方の平田さんは失礼ながらおじさんっぽくて、私の中に出来上がっていたチャールズ像とは全然違う*。ミュージカルとストレートプレイの差もあるにはあったのかもしれないが、そんなわけで前半はイマイチだった。ただし、原作が秀逸なのと脚色・演出がいいので、退屈さはまったく感じなかった。
*奇しくも、先ほどたまたま聞いたラジオで、来年正月の12時間ドラマで吉宗を演じる中村雅俊が、<小説を読んだ人は主人公の像を自分の中に作り上げている。映像を見ると、はっきりと特定された人物像が現れる。すると読者は自分が作り上げた人物像と「違う」と思ったりするものだ(だから、中村雅俊の吉宗が「違って」も我慢してくださいね)>というようなことを言っていた。まったく私の状況と一緒だ、と可笑しくなってしまった。
閑話休題。
休憩を挟んだ後半、なぜだろう、平田さんのチャーリーが俄然存在感を増し、あんなに受け入れ難かったのにいつの間にか同化して涙さえ浮かべている自分にふと気がついた。今でも平田さんは私のチャーリー像とは遠いけれど、私がチャーリーに同化できたのは平田さんもまたイコールチャーリーになっていたからかもしれない。色々なチャーリーがいていいのだ、チャーリーはチャーリーなのだ。
チャーリーに対する他者の気持ちは残酷だ。彼の職場であるパン屋の連中がチャーリーを可愛がったのは、結局のところ、優越感をもてるという理由からなのだ。芝居ではその辺の残酷さが伝わってこなかったが、そこを掘り下げるのは難しいのかもしれない。偉くなってしまったチャーリーは彼らの敵になり、元のチャーリーに戻ったら再び受け入れられる。
両親や妹との関係はうまく整理していたように思う。チャーリーのトラウマとなっている家族との関係、複雑な心情が非常にわかりやすくまとめられていた。男の子って、母親が好きなんだなあ。というか、どんなに突き放されても母親に愛されたいのだ(母親に一番愛されたい子供を虐待する母親はどんな事情があれ、許せない)。
ところでアリス・キニアンはチャールズの何を愛したのだろうか。知能の低いチャールズには多分同情心を寄せ、高い知能を得た後は男性として愛し、だけど元に戻ったらもう愛さないと言った。私にはアリスの気持ちがわかるようでわからない。
チャーリーはいつ幸せだったんだろう。手術前パン屋で働いていたときだろうか、IQが高くなったときだろうか、それとも元に戻った今が幸せなんだろうか。いつでもいい、チャーリーが自分は幸せだと思える時間があったら、いいのだ。
チャーリーとアルジャーノンに花束を。
<上演時間>第1部70分、休憩15分、第2部75分
おまけ1:後から席に着いた左隣のオッサンに2度足を踏まれた。コートも私の目の前でばさばさ脱ぎ、カバンもどさりと座席の下に置き、とにかく行動がダイナミック。座っても肘をぶつけてくるし、もう~っ。
おまけ2:右隣の女性、芝居が始まって間もなく激しく咳き込んだ。こんな場で咳をしちゃいけないと焦り、咳をこらえようとするから余計咳き込み、苦しい。私もよくそういう咳の発作が起こるし、つい先日演舞場で経験したばかりで、よくわかる(「カリギュラ」でも1度起こった)。よほどのど飴をあげようかと思ったが、私の場合、のど飴の刺激で又咳き込むことがあるのでやめてしまった。その女性、休憩時間に「体調が悪いので帰りますから、この席あきます。こっちのほうが見やすいと思うので、よかったら移ってください」と私に声をかけてきた。突然のことでビックリしたが、有難くお受けして席を移った。通路際なのでたしかに有難い。右隣のオッサンも、ジャマな私がいなくなって喜んでいたみたい。
だけど、この女性はせっかく芝居を見に来たのに、本当にお気の毒であった。別れ際「お大事に」と声を掛けたが、その後体調は如何であろうか。早いご回復をお祈りしています。
ふと見回すと、マスクをかけて観劇している人(もちろん、マスク美人の私も)もちらほら見えて、世の中風邪が流行っているのだなあ、と実感した。
おまけ3:平田さんと妹・ノーマ役の田村真紀さん(多分)に「結界師」から花束が来ていた。私は見ていないけれど娘のために録画をとる「結界師」で声をやってたんだあ、と1人盛り上がり。
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