待ってました、亀ちゃん!!
10月30日 松竹大歌舞伎(浅草公会堂 15時の部)
11時の部を見た方から補助席が出ているという情報をいただいていたが、実際、公会堂に着いたらあまりの人の多さにビックリだけど、亀ファンとしては嬉しい限り。
「奥州安達原」。亀ちゃんで見るのは去年の亀治郎の会に引き続き2度目、その前の吉右衛門・福助さんも含めると3回目だけど、とても新鮮だった、そしてとても面白かった。久しぶりに見て、忘れている部分もずいぶんあったせいかもしれない。いや、大半は覚えているのだけど、細かい部分で、え、こんな場面あったっけ、っていうことが時々。それに去年は意外に泣けなかったのに、今回は泣いた。
まず、花道もどき(せっかく花道を設置できる会場なのに、座席数を増やすためか、花道はなかった。ジレンマだねえ)からの出で、もう哀れさにウルウルした。お君が自分の着物を脱いで袖萩に着せ掛けるところ、それを知った袖萩が泣きながらお君を抱きしめるところ、浜夕が自分のうちかけを投げてやるところ。親子3代の愛情がひしひしと感じられるこの一連の展開には、涙がぼろぼろこぼれた(泣いていたのは私だけ?)。
出演者全員が丁寧に演じており、しかも主な役どころは源義家とお君を除いては去年と同じメンバーで役がちゃんと手に入っていて、安心して見ていられる。直方の段四郎さん(娘の父親ってこういうもんだろう、ってよくわかる)も、浜夕の竹三郎さん(こういう役は実にうまい)も、義家の門之助さん(品位と人としての大きさを感じた)も、宗任の亀鶴さん(好きですっ)も、お君の谷口可純ちゃん(可愛い、いじらしい。お君は下田澪夏ちゃんとダブルキャストだが、可純ちゃんも歌舞伎にはよく出ているから、さすがにうまい)も、み~んないい。
袖萩が自らの胸に短刀を突き立てて苦しんでいる間に、亀ちゃんは阿部貞任に変身していた。線の細さはどうしても否めないのだが、そこをカバーしようとしている様子は十分に感じられた。考えてみれば、袖萩と貞任の2役を演じるということは、2人の人物というだけでなく、お君の母親と父親を演じるということでもある。となれば、袖萩は母であると同時に娘でもあるから、これに父親も加えて亀ちゃんは3つの心情を演じ分けなければならない。私にはその心情が強く伝わってきて、泣かされたのにはそれもある。
それにしても親と子を厳しく分ける小さな枝折戸ひとつの何と大きく高く重いことよ。
「吉野山」。真っ白な雪の世界に展開する緊迫した空気の「奥州安達原」とは打って変わって、満開の桜の明るい場面にほっとする。梅枝クンの静御前が品よく美しい。そして亀ちゃんの踊りの素晴らしいこと。動きの一つ一つに狐の心が感じられる。躍動感に溢れ、ドラマが見える。梅枝クンとの踊りもきれいで思わず見とれた。逸見藤太の薪車さんもちょっとまだ動きが硬いような気もするが、ユーモラスで楽しかった。風林火山がらみのセリフは受けた。
見ているときは、たくさん書きたいことがあったのに、なぜか全部飛んでしまった。終演後、どこかのおばさまが「安達原が終わった後帰ろうかと思ったんだけど、帰らなくてよかったわ~」としみじみおっしゃっていたのが、私の気持ちを表している(もちろん、私は帰るつもりは最初からありませんでしたが、よかったわ~という気持ちとして)。
私は猿之助さんの舞台は大人になってから見たことがないからよくわからないが、全体的として、亀治郎さんが猿之助さんに近づきつつあるような気がした。
<上演時間>奥州安達原95分、幕間25分、吉野山58分
おまけ1:なんと、安達原の最中にどこかで携帯の呼び出し音が。それも2回も。同じ携帯のようでしたよ。あ~りえねぇ~(怒)。
おまけ2:今日の席は前のほうではあったものの、思い切り上手側。残念なことに、「奥州安達原」の芝居はほとんどが下手で行われる。とくに袖萩は、下手から動かないし、舞台に座ったままの姿勢がほとんど。なのに、斜めに見ている私の視線の先にかなり姿勢のよろしい方が…頭と頭の隙間から覗くようにしないと見えず、首がす~っごく疲れました。「吉野山」では、そういうこととは関係なく、立雛の男雛のお顔が見えなかった(泣)。とまあ、舞台は非常に見づらかったのだけれど、浄瑠璃の山台がすぐ近くで、迫力たっぷり。演奏の合間に三味線の弦をちょっと直すなんていうところも見られて、それはそれなりに興味深いことであった。
おまけ3:亀ちゃんが自分で解説をしているというのでイヤホンガイドを借りたのに、開演前と幕間の解説では、周囲もざわついているし、私自身もあちこちウロウロして集中できずで、結局亀ちゃんの声を聞いただけ、というはずし方。かえすがえすも残念。
おまけ4:段之さん、イメチェン?「吉野山」の後見をしてらしたけど、一瞬わからなかった。
おまけ5:日生劇場「風林火山」のチラシ、ge~t!! 松竹の一般発売は12月19日。4月の舞台なのに、年内に予定立てなくちゃならないか。早いなあ。勘三郎さん、来年3月「春暁特別公演」のチラシもget。3日、4日はゆうぽうとホール、5日調布グリーンホール、6日グリーンホール相模大野、7日千葉文化会館。一般発売は12月1日。これって松竹の扱いがあるのかどうか不明。風林火山のほうは、プログラムにも掲載あり。それから、浅草歌舞伎、去年と同じメンバーに亀ちゃんがcome ba~ck。
おまけ6:帰りに、公会堂隣の天麩羅屋で食事した。開演前に通ったら行列ができていたから(夜はすぐ入れた)。ガイドブックに載っているのか外国人のお客さんも多い。ネタが大きく、衣がけっこう厚い割には油もたれせず、おいしくいただきました。3時開演、6時終演というのは、前も後も慌しくなくてありがたい。
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