一度は行ってみたい風町--映画「旅の贈り物」
優等生的感動映画、そして人物紹介が終わった頃には物語の展開も読め、予想どおりにストーリーは進行する。と書くと、きわめて退屈そうな映画に思えるかもしれない。全然そうではない。優等生的、そして単純なストーリー展開が見る側に安心感を与え、ほんわかと暖かい気持ちで「人間っていいなあ」と衒いもなく言えるのである。映画「旅の贈り物」は、一種のお伽噺のようなものかもしれない(昔「旅の重さ」という、なんだか重っ苦しい映画があったなあ。なんてことを題名から思い出しました)。
★あらすじ
8月某日、大阪発0:00の列車が出発した。そこにはそれぞれ心に傷を抱えた5人の男女が乗っている。由香(桜井淳子)はキャリアウーマンで、年下の恋人とハワイへ休暇を過ごすつもりだったのに、彼の浮気現場を目撃する。彼にビンタを食らわせ、そのまま大阪駅からこの列車に乗る。華子(多岐川華子)は高校生。誰も、両親さえも自分を必要としていないという思いに捉われ、ネットの自殺サイトに参加するが、10分遅刻したために置いていかれ、すねた気持ちのまま、やはりこの列車に乗りこむ。ミチル(黒坂真美)は田舎から大阪に出てきてタレントを夢見るが、挫折して今はキャバクラ嬢。若林(大平シロー)はリストラで会社をクビになり、家庭にも居場所がない。網干(細川俊之)は働きづめで定年を迎え、さあこれから妻と2人で旅行などしようかというときに妻に先立たれる。
人生をつっぱった気持ちで走っている由香、自分の存在価値が見出せないで誰に対しても素直になれない華子、反対に誰に対しても屈託なく素直に接するミチル、華子に一緒に死のうと誘われ、迷いに迷う若林、妻の写真を持ち歩き、どこに行っても写真に景色を見せ、語りかける網干。5人が降りた駅は、列車の終着駅である風町という小さな港町。5人それぞれに町の人はやさしい。町の時間はゆったりと流れる。町にはほとんど老人しかいないが、みんな健康でとても明るい。老人たちが明るくいられるのは、5人と同じようにどこからともなくこの町にやってきて、この町に居つくようになった医師・越智(徳永英明)の影響が大きい。が、越智自身もこの町のやさしさに包まれている。越智は次第に由香の心を和らげていく。華子の心を開いたのは、孤独な少年翔太(小堀陽貴)。華子がやっと自分を必要としてくれる存在に気がついたとき、若林は華子とともに死ぬ決心をする。だが…
と、まあ、こう展開していくのだが、この映画を成功させたのは多岐川華子の存在かもしれない。高校生・華子は大人からみればなんとも甘ったれた考え方だし、実に可愛げのない態度なのだが、本当は素直で優しく、寂しがり屋なのだ、というのが彼女の演技に現れている。多岐川華子自身が親に愛されて育ったのだろう、嫌味のない素直な演技に好感がもてた。翔太の小堀陽貴もいい。2人の孤独な魂がやっと触れ合ったとき、私はバッグからハンカチを出さざるを得なかった。
町の人たちは樫山文枝、大滝秀治、梅津栄など芸達者揃い。その中で意外にもよかったのが徳永英明。あまり好きではなかったのだが、町でたった1人の医師として、予防医学で老人たちの健康を守る青年の役を自然に演じていて好感がもてた。
ビックリしたのは細川俊之。昔あの声で多くの女性を魅惑した、あの、あの細川さんが、すっかり年老いて、亡き妻の面影をいつまでも追い求めている。う~む。
それにしても、列車はいいなあ。とくに海辺を走る列車が私は好き。「旅の贈り物」の列車も、山陰の海を眺めながら走る。私も「風町」を訪れて、ゆったりした時間を過ごしてみたい(ちなみに、風町は架空の町です)。ただし、歌舞伎が見られなくなっちゃうから、せいぜい1週間というところかな(ハハハ、結局都会を離れることは私にはできません)。
★大阪発0:00の列車
客車は、昔皇族などが使ったという「マイテ」*、牽くのは「ゴハチ」**。
*マイテ:「マ」は重量42.5トン以上47.5トン未満、「イ」は1等車、「テ」は展望車。
**ゴハチ:EF58-150のこと。Eは電気機関車、Fは動輪の軸数6本、58は最高速度85km/時間以上の直流電気機関車、150はその機関車の固有番号(以上、プログラムより)
★エンドロール
よく、エンドロールが流れ出した瞬間に席を立つ人がいるが、私には信じられない。私は、館内が明るくなるまで席にいなくては映画を見たという気がしないのである。そして、この映画に関しては、席を立った人は早まった、早まった。エンドロールがすべて流れても、映画は終わっていないのである。ご注意を。
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